
鍼灸院の保険適用と療養費請求|対象6疾患・医師同意書・受領委任の実務ガイド【2026年版】
鍼灸院の保険適用と療養費請求|対象6疾患・医師同意書・受領委任の実務ガイド【2026年版】
慢性のこりや疲労回復まで保険でまかなえる、と誤解したまま施術する鍼灸院は少なくありません。しかし対象を外れた保険請求は、返戻や適正請求上のリスクに直結します。
結論から言うと、はり・きゅうの療養費(保険)が使えるのは、神経痛・リウマチ・頸腕症候群・五十肩・腰痛症・頸椎捻挫後遺症など慢性的な疼痛を主症とする疾患について、医師が施術を必要と認めて同意書を交付した場合に限られます。「必ず保険が使える」わけではなく、対象可否は最終的に医師と保険者の判断で、同一の疾患で保険医療機関の治療を受けている間は併給できません。本記事では、療養費の全体像・対象症状・医師の同意書・受領委任と適正請求・保険と自費の線引きを、厚生労働省の一次ソースをもとに院側の実務目線で整理します。
【結論】鍼灸院の保険適用は「対象疾患×医師の同意×受領委任」で決まる
鍼灸院の保険は、医科のような現物給付ではなく「療養費」という枠組みで支給されます。対象となる症状・医師の同意・請求の枠組み(原則は償還払い、代理請求は受領委任の登録)が整って初めて、保険施術が成り立ちます。
はり・きゅうの保険適用とは(定義)
鍼灸院の保険適用とは、はり・きゅうの療養費の支給対象となる慢性的な疼痛を主症とする疾患について、医師が原因療法として適当と認めて同意した上で、施術費用を療養費として保険者に請求できる仕組みを指します。医師の医療的判断が出発点であり、患者の希望や施術所の判断だけで保険が使えるわけではありません。
対象や要件は、厚生労働省「はり師、きゅう師及びあん摩・マッサージ・指圧師の施術に係る療養費の支給の留意事項等について」(留意事項通知。統合通知=平成16年10月1日 保医発1001002号、最新改正 平成29年6月26日 保医発0626第3号)などに定められています。算定額は改定通知でほぼ毎年見直されるため、本記事では具体的な単価には触れず制度の枠組みを整理します。
保険適用の3つの要件(対象症状・医師の同意・受領委任)早見表
はり・きゅう/あん摩マッサージ指圧の療養費に共通する要件を、まず早見表で押さえてください。院側が実務で確認すべきポイントは、この3点に集約されます。
| 要件 | 内容 | 主な根拠 |
|---|---|---|
| 対象となる症状 | はり・きゅうは慢性的な疼痛を主症とする神経痛・リウマチ等、あん摩マッサージ指圧は筋麻痺・関節拘縮等 | 留意事項通知 |
| 医師の同意 | 保険医が施術の必要性を認め、同意書(又は診断書)を交付 | 同意書の取扱いリーフレット |
| 請求の枠組み | 償還払いが原則。施術所が代理請求するには受領委任の事前の申し出(登録)が必要 | 受領委任の取扱い |
出典:厚生労働省「はり師、きゅう師及びあん摩・マッサージ・指圧師の施術に係る療養費の支給の留意事項等について」、厚生労働省「はり・きゅう・あん摩マッサージ指圧の同意書の取扱い」。

療養費の対象になる症状|はり・きゅうの6疾患とマッサージの症状要件
療養費の対象は、はり・きゅうとあん摩マッサージ指圧とで建て付けが異なります。はり・きゅうは代表的な疾患名で、あん摩マッサージ指圧は疾患名ではなく症状で判断されます。
はり・きゅうの対象6疾患と「同一範ちゅうの慢性疼痛」
はり・きゅうの療養費の支給対象は、慢性病であって医師による適当な治療手段のないものとされ、主として神経痛・リウマチなどが挙げられます。これと同一範ちゅうと認められる類症疾患として、頸腕症候群・五十肩・腰痛症・頸椎捻挫後遺症等の慢性的な疼痛を主症とする疾患が対象とされます(留意事項通知)。同意書・記録の様式でも、これらは「1.神経痛 2.リウマチ 3.頸腕症候群 4.五十肩 5.腰痛症 6.頸椎捻挫後遺症」の順で列挙されています。
重要なのは、対象が「この6疾患だけに限る」わけではない点です。通知は代表的な疾患を例示したうえで「同一範ちゅうの慢性的な疼痛を主症とする疾患」を含めており、6疾患以外の類症疾患は診断書に基づき保険者が個別に支給の適否を判断します。いずれも、医師が原因療法として適当と認めて同意していることが前提です。
あん摩マッサージ指圧は「筋麻痺・関節拘縮」など症状で判断される
あん摩マッサージ指圧の療養費は、一律にその診断名によることなく、筋麻痺・関節拘縮等であって医療上マッサージを必要とする症例が支給対象とされます(留意事項通知)。はり・きゅうのような特定の疾病名を要件とはせず、症状の状態に着目して判断される点が特徴です。
| 施術 | 療養費の対象 | 判断の建て付け |
|---|---|---|
| はり・きゅう | 神経痛/リウマチ/頸腕症候群/五十肩/腰痛症/頸椎捻挫後遺症 など、同一範ちゅうの慢性的な疼痛を主症とする疾患 | 主に6疾患を例示。慢性で医師の適当な治療手段がないもの |
| あん摩マッサージ指圧 | 筋麻痺・関節拘縮など、医療上マッサージを必要とする症例 | 一律に診断名によらず症状で判断(特定の疾病名を要しない) |
出典:厚生労働省 留意事項通知(第2章 支給対象)。なお、慰安・疲労回復を目的とした施術や、医師の同意がない施術は、いずれも療養費の対象になりません。

医師の同意書が療養費の前提|必要な理由と6か月の考え方
はり・きゅう・あん摩マッサージ指圧のいずれも、医師の同意書(又は診断書)が療養費支給の要件です。ここでは制度の考え方を概観します。
なぜ医師の同意書が必要なのか
療養費の対象は医師による適当な治療手段のない慢性疾患等に限られ、その判断は医師に委ねられています。施術を受けるにはあらかじめ保険医から同意書の交付を受ける必要があり、同意書は療養費支給申請の都度これを添付することが原則です(厚生労働省「はり・きゅう・あん摩マッサージ指圧の同意書の取扱い」・留意事項通知)。
同意は施術所や患者の自己判断で代替できず、医師が必要性を認めない状態での保険請求は返戻や不適正請求の原因になります。骨折・脱臼等の外傷を対象とする整骨院の受領委任・療養費(保険)入門とは、支給対象も同意の建て付けも異なる別制度である点にも留意してください。
支給可能期間は6か月|再同意の考え方
同意書に基づく療養費の支給が可能な期間は6か月です。継続する場合はあらためて保険医の診察を経た再同意が必要で、再同意でも同意書(文書)の交付が求められます。また医師の再同意に際しては、施術者から施術報告書の交付が求められます(同意書の取扱いリーフレット)。
院側の実務では、患者ごとに同意の起算と満了時期を把握し、期限切れの前に再同意を受けられる仕組みが欠かせません。失念して施術を続けると、その分の療養費が支給されません。運用細目は制度改定で変わり得るため、公開時点で最新のリーフレット・留意事項通知を確認してください。

受領委任と償還払いの違い|申し出から療養費請求まで
療養費は本来、患者が全額を支払い自分で保険者へ請求する「償還払い」が原則です。これに対し、患者は窓口で一部負担金のみを支払い、残りを施術所が代わって請求する仕組みが「受領委任」です。
受領委任と償還払いの違い
両者の違いを早見表で整理します。受領委任は患者の窓口負担を軽くする一方、施術所側に事前の登録という手続きを求めます。
| 項目 | 償還払い(原則) | 受領委任 |
|---|---|---|
| 患者の窓口支払い | いったん全額を支払う | 一部負担金のみ |
| 保険者への請求 | 患者本人が行う | 施術所が患者に代わって行う |
| 事前の手続き | 不要 | 施術管理者・開設者が地方厚生(支)局へ申し出(登録) |
あはき(はり・きゅう・あん摩マッサージ指圧)の受領委任制度は、2019年(平成31年)1月1日から取扱いが始まりました(厚生労働省・地方厚生局)。「令和元年」ではなく平成31年1月1日である点に注意が必要です。
受領委任の申し出(登録)と施術録
受領委任を取り扱うには、施術管理者・開設者が施術所を管轄する地方厚生(支)局へ申し出(申請)を行い、登録を受ける必要があります。加えて、令和3年(2021年)1月1日以降に新規で施術管理者として申し出る場合は、実務経験と研修受講が要件とされています(厚生労働省・地方厚生局)。
請求の根拠となるのが施術録(カルテ)です。同意情報・症状・施術内容・経過を正確に記載し、療養費支給申請書に反映します。記録の不備や事実との食い違いは返戻の主因になるため、施術録の整備が適正請求の土台です。記録・電子化は鍼灸院の電子カルテ・施術録の管理方法で扱っています。

保険と自費の線引き|院内オペレーションの設計
保険(療養費)の対象は限られ、同一疾患を保険医療機関で治療している間は併給できません。多くの鍼灸院は、保険対象外の慢性症状・コンディショニング・美容鍼などを自費メニュー化し、保険と自費を両立させています。ここで問われるのが、会計と記録を分ける設計です。
保険(6疾患等)と自費メニューの会計・記録を分ける
保険対象の施術と自費施術は、目的・記録・会計を明確に分けて管理する必要があります。両者が混在すると事実関係が不明確になりやすく、返戻や照会、適正請求上のリスクになります。
| 区分 | 対象の考え方 | 会計・記録 |
|---|---|---|
| 保険(療養費) | 6疾患等の慢性疼痛への はり・きゅう/筋麻痺・関節拘縮等への マッサージ(医師の同意あり) | 施術録に同意情報・症状・施術内容を記載し保険分として管理 |
| 自費 | 慰安・疲労回復・コンディショニング・美容鍼など、または医師の同意がない施術 | 自費メニューとして会計・記録を分離 |
自費メニューの設計や価格づけ・回数券化の考え方は、整骨院向けですが自費メニュー設計ガイドの枠組みが参考になります。
予約・カルテ・レセコンを分断させない一元管理
保険と自費を分けて管理しつつ、患者ごとの来院・記録・再来をつなげるには、システムの役割分担の整理が重要です。療養費(レセプト)を担うのはレセコン、予約・患者管理・再来促進を担うのは患者管理システムで、役割が異なります。
治療院HUBは整骨院・鍼灸院向けの業務管理SaaSです。レセプト・保険請求機能は搭載せず、保険請求は既存のレセコンが担い、予約・患者管理・LINE再来案内・回数券管理・離脱/リピート分析を治療院HUBが担う併用(共存)が前提です。院全体の運営は鍼灸院の経営ガイド、開業準備は鍼灸院の開業ガイドも参考にしてください。

よくある質問(鍼灸院の保険適用・療養費)
Q1. 鍼灸院で保険が使えるのはどんな症状ですか?
はり・きゅうの療養費は、神経痛・リウマチ・頸腕症候群・五十肩・腰痛症・頸椎捻挫後遺症など慢性的な疼痛を主症とする疾患が対象です(あん摩マッサージ指圧は筋麻痺・関節拘縮など症状で判断)。いずれも医師が適当と認めて同意した場合に限られ、対象可否は最終的に医師と保険者の判断です(厚生労働省 留意事項通知)。
Q2. 医師の同意書は毎回必要ですか?有効期間は?
はい。あらかじめ保険医から同意書(又は診断書)の交付を受ける必要があります。同意書に基づく支給が可能な期間は6か月で、継続する場合は保険医の診察を経た再同意(文書の交付を含む)が必要です(厚生労働省「はり・きゅう・あん摩マッサージ指圧の同意書の取扱い」)。
Q3. 受領委任と償還払いは何が違いますか?
償還払いは、患者が全額を支払い自分で保険者へ請求する原則的な方法です。受領委任は、患者が窓口で一部負担金のみを支払い残りを施術所が代わって請求する仕組みで、あはきでは2019年(平成31年)1月1日に導入されました。利用には施術管理者・開設者の地方厚生(支)局への申し出(登録)が前提です。
Q4. 保険診療と自費メニューは同時に提供できますか?
併用は可能ですが、保険対象の施術と自費施術は目的・記録・会計を明確に分ける必要があります。混在すると返戻や照会のリスクになるため、会計と施術録を分離できる運用設計が鍵です。なお、同一疾患で保険医療機関の治療を受けている間は療養費を併給できません。
Q5. 施術録(カルテ)はどこまで記載・保存が必要ですか?
同意情報・症状・施術内容・経過を施術録に記載し、療養費支給申請の根拠として保存します。記録の不備は返戻の主因になるため、予約・カルテを一元化して転記漏れを防ぐと請求が安定します。具体的な記録・電子化の進め方は鍼灸院の電子カルテ・施術録の管理方法で解説しています。
まとめ:要件を押さえれば療養費請求は安定する
鍼灸院の保険(はり・きゅうの療養費)は、神経痛・リウマチ・頸腕症候群・五十肩・腰痛症・頸椎捻挫後遺症など慢性的な疼痛を主症とする疾患について、医師が施術を必要と認めて同意した場合に対象となります(あん摩マッサージ指圧は筋麻痺・関節拘縮など症状で判断)。対象可否は最終的に医師と保険者の判断で、同一疾患を保険医療機関で治療中は併給できません。院側の実務では、医師の同意書(6か月・再同意)の管理、受領委任の申し出(登録)、正確な施術録の整備が適正請求の柱です。保険と自費は会計・記録を分け、レセコンと患者管理システムの役割分担を整えれば、返戻を防ぎながら経営を安定させられます。
保険と自費、記録を分けて適正請求を守る
治療院HUBは整骨院・鍼灸院向けの業務管理SaaS。予約・患者管理・LINE再来案内・回数券管理・離脱/リピート分析を1つに集約し、保険(療養費)と自費の記録・会計を分けて管理できます。レセプト・保険請求機能は搭載しておらず、既存のレセコンとそのまま併用(共存)できます。
料金・機能の詳細や無料での製品体験は、お問い合わせ・資料請求からご確認いただけます。
関連記事
- 整骨院の受領委任・療養費(保険)入門|対象・施術録・適正請求と自費移行
- 鍼灸院の電子カルテ・施術録の管理方法
- 鍼灸院の開業ガイド|準備・費用・手続きの進め方
- 鍼灸院の経営ガイド|集客・単価・継続率の考え方
- 整骨院の自費メニュー設計ガイド|価格づけ・回数券化の進め方
監修・著者
依田尚人(YDAIコンサルティング株式会社 代表)。整骨院・鍼灸院向け業務管理SaaS「治療院HUB」を提供。本記事は厚生労働省の療養費関連通知および同意書の取扱いリーフレット等の一次情報をもとに整理しました。制度の運用細目や算定額は改定により変わり得るため、実務では最新の通知・各保険者の運用をご確認ください。


